思わぬトラウマ

8月が終わるまでに読んでほしい。対策を知ってる人はおしらせください。
チヒロ(かもめと街) 2023.08.31
読者限定

夏の門限は19時だ。

正確に言えばこれは門限ではなく、ただのマイルールなのだが、もう10年近くも夏の夜に怯えている。

「夏こそ夜遊び」という人も多いかもしれないが、わたしにとっての夜遊びは梅雨明けと共にフィナーレを迎える。

以前住んでいたマンションの廊下は外に面していて、棟の隣には駐車場があり、その向かいには大きな桜の木があった。

「いってらっしゃい」と夫を見送る春の朝は、どんなに優雅な気持ちになれたであろうか。夫の背景に満開の桜が見え、まるで少女マンガで恋人がバラを背負って登場しているかのようだった。

今よりもあくせくと暮らしていたせいで、そんな麗しい記憶がわたしの頭に残ってはいるものの、一枚も写真には収めていない。映画のワンシーンのようで、記憶だけで留めておくのは惜しいくらいだった。

あの街での生活は、四季がいつもそばにあった。春には満開の桜、秋には紅葉、冬には「しまむら」の背景に澄んだ夜空と一番星が輝いていた。

夏をあえてスルーしたのには理由がある。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、3203文字あります。

すでに登録された方はこちら