めぐりめぐる配慮と心配

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かもめと街 2025.08.31
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 駅を降りると、自動券売機のそばで大きなトランクを持った3人の旅行客が携帯とにらめっこしながら誰かを探していた。
「待ち合わせかな?」と思ったものの、困っていそうな雰囲気が伝わってきた。
海外からの旅行客が多い東京でも、地下鉄の改札口に駅員さんがいないことは多い。何年前からこんな感じだったっけ、と思いつつ、もう記憶にないくらい前のことな気がする。他の乗降客たちはすでに地上への階段を昇っていた。

 英語も中国語も韓国語もできないけど、話を聞いてみよう。そのひとりと目が合うと「Chinese?」と声をかけられた。「No,Japanese」と返すと、すぐさま持っていたスマホをこちらに見せた。液晶画面には、ここから品川までの経路が表示されていた。
「ここへ行きたいの。でも切符の買い方がわからなくて……」と嘆く。

 慣れない場所での出来事で、全員がおろおろしている気持ちを全身に浴び、わたしまで「シナガワ…?」と一瞬理解できずにいた。頭の中で漢字がゲシュタルト崩壊している。「落ち着いて自分!」と言い聞かせた。

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